よく「倭」は悪字だという事を言う人がいます。しかし、私には倭に悪い意味があるとは思えません。それは、倭という漢字を与えたのが「魏」という国だからです。漢字のつくりを見れば、「倭」=「人+委」、「魏」=「委+鬼」です。魏の鬼が人に変わったのが倭です。よく「委」には首を垂れるという意味があるという人がいますが、魏は鬼が首を垂れるという意味の文字でしょうか? 鬼と委が組み合わさった魏は、最悪の意味を持つ悪字でしょうか?
「魏魏」という言葉があります。これは「高くそびえる」という意味です。魏の委に首を垂れるという意味はありません。魏の委は、遠い高いという意味です。古代の中国でも鬼には強いという意味がありました。つまり「魏」は「偉大で強い」という意味を持ちます。おそらく歴史があるという意味もあるでしょう。
魏は、自国と似た専用の文字を日本に与えました。これは破格の待遇になります。邪馬台国の使者の待遇も破格のものでした。もしかすると、蓬莱と勘違いしたのかもしれませんが、当時の中国では有り得ないほどの厚遇だと思います。
また、中には、倭は矮に似ているから悪字と言いますが、こんな説こそ愚の骨頂と言わざるを得ません。似ている漢字は意味が同じと言っているようなもので、愚かで馬鹿げているにも程があります。
倭が悪字でない根拠は他にもあります。隋書倭人伝では、倭の字を「俀」に変えています。俀は、弱いという意味を持つ明らかな悪字です。倭が悪字なら俀に変える必要はありません。当時、中国は朝鮮半島をめぐり日本と敵対しています。倭が悪字でないから、気に入らずに変えたのだと思われます。
倭は魏と同様に、雅な文字ではないと言えるかもしれません。しかし、けっして悪字でも蔑称でもありません。国として専用の文字が有るという事は、古代中国が認めるほど重要な国である証拠です。倭には「遠い。歴史がある。」という意味が有ったと思います。そして、あくまで個人的な印象ですが、魏と同じ猛々しさを感じます。
日本の歴史学者は、必要以上に日本を卑下する性質があります。そのような思想の根本原因として考えられるのが、京都を中心とする選民思想の影響です。大和朝廷が実権を握ってから、京の人たちは、自分たち以外を野蛮で劣った民であるという認識を持ちました。その根拠になったのが、優れた文化は大陸(中国や朝鮮)から伝わった。だから、それらを真っ先に取り入れた京都や、大陸に近い西日本の方が優れた存在だ!という思想です。特に東北は、まつろわぬ民がたむろする未開で野蛮な地と見なしていました。
この、選民思想を支えた理論武装には、重大な弊害があります。それは、大陸文化伝来前の日本を、劣等なものと認定しないと成り立たない点です。そのため一部の学者は、日本卑下のため血眼になりました。古代日本に関わるものは、すべて劣等なものとレッテル貼りをしました。縄文時代に優れた文化があったなど禁句です。古代日本に独自の文字があったことなど絶対に認めてはいけません。縄文時代は、絶対に劣等文化でなければならないのです……。
そこに、真実を追求するという精神はありません。この、壮絶な勘違いは、今も続いていると感じます。倭に悪い意味があるという説も、縄文時代に農業も文字も無いという説も、結局は差別主義者の戯言に過ぎなかったのです。
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